第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
「それって…」
「サルコーマだね」
井ノ原先生が病理検査の結果をプリントアウトしたものを見せてくれた。
「myxoid liposarcoma」
ミーティングルームのテーブルに置かれた紙に、トンと指を指して教えてくれた。
染色された細胞の画像の横に、そう書いてある。
「4つに分類される軟部肉腫のうちのひとつだよ」
隣に座っている三宅先生は椅子に深く沈み込んで、天井を仰いでいる。
「…脂肪肉腫ですか?」
「そうだ」
井ノ原先生はにこりともしないで、向かいの椅子に腰掛けた。
「粘液型脂肪肉腫だな」
それなら悪性度は下から数えたほうが早く、比較的手術などの治療5年の予後はいいはず。
粘液型脂肪肉腫は大きなくくりだと「軟部肉腫」と呼ばれる。
年間で約2000名ほどが罹患する所謂がんだ。
その中でも人数が多く、悪性度が比較的低いのが粘液型脂肪肉腫だ。
このサルコーマは、脂肪細胞の組織ががん化(無限増殖)するもので、全脂肪肉腫の30%を占める。
しばし粘液質の液体を含んでいるのが特徴だ。
好発部位は太ももや腕などの四肢だが、理屈を言えば脂肪がある全身どこにでもできてしまうものだ。
ふくらはぎはそんなに脂肪が多いと言える場所じゃない。
だから能村さんは、脂肪肉腫としても珍しい場所にできたと言える。
「良性…じゃなかったんですね…」
能村さんの笑顔を思い出して、ぎゅっと手を握った。