第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
「あれ…?」
あれから数日経った。
助手で入った手術は無事に終わり、術後の経過も良好だ。
朝に病棟の患者さんの見回りに来て、すべて見終わって看護師に出す指示をカルテに入力しようと踵を返すと、ベテラン看護師が足を引きずるように廊下を歩いているのが見えた。
「ちょっと、能村さん」
「はあい?」
能村さんは、確か40代後半だったはず。若い頃からこの病院で働いている大先輩だ。二人のお子さんの育児時短期間が終わってこの春に内科から移動してきて、現在は整形外科病棟の副看護師長だ。
「なんか足引きずってません?」
「え?」
「ほら…右足」
「ああ…」
能村さんは曖昧に笑った。
笑うと目が細くなって仏像のように見えるから、患者からは仏の看護師さんと呼ばれている。
「なんか最近足首が痛くて。歩くの苦痛なんですよね」
「ちょっと…なんで早く言わないんですか」
「ええ~?こんなの年のせいだもん。大げさね」
「でも実際に足を引きずってるってことは、痛いんでしょ?」
「そりゃ痛いけど…」
「ちゃんと診察受けないとだめじゃないですか!」
ちょっと強めに言ったら、能村さんは目を白黒させた。
「あら…櫻井先生に怒られちゃった」
「怒られちゃった、じゃないですよ!」
能村さんは苦笑いすると、右足の制服ズボンの裾を持ち上げた。
「ねえ、先生。こんな風にふくらはぎが腫れてるんだけど、これ、関係ある?」