第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
「翔、遅かったね」
「三宅先生」
症例検討室に入ると、大きなスクリーンが広い部屋の奥の壁に出ていた。
そこには整形外科のカンファレンスであることが表示されている。
「お疲れ様です」
「おつー」
三宅先生は俺の担当指導医だ。
この人は俺よりも若く見えるし可愛い見た目をしているが大先輩だ。
40はとっくに超えているという噂で、それなのに20代にしか見えなくて恐ろしいとうちの病院の7不思議に数えられている。
そんな可愛い見た目とは裏腹に、整形外科医としての腕はかなりいい。
長時間の手術もものともしないし、緊急で夜勤が続いても平気な顔をしてるようなタフな人だ。
整形外科部長や副部長の信頼は厚い。
明日の手術は俺の患者だけど、執刀はこの人で俺は助手として入ることになる。
「なにかありましたか?」
三宅先生の隣の席に座りながら、ノートパソコンを開いた。
「うう~ん…あのね、翔。この患者、担当変わるから…」
「えっ?」
三宅先生のノートパソコンには、俺が初診から担当している患者のカルテが出ていた。
「どうしたんですか…?検査結果って、もう出てましたっけ?」
「今日の午前中出た。先に見させて貰ったけど、これねえ…骨肉腫だね」
「えっ…」
肉腫とは、平たく言えばガンのことだ。
整形外科に研修医として入ってから何人か若い人を見送っているが、そのうちの数名がこの骨肉腫が原因だった。