第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
『ちぇー。なんで内科選ばないんだよぉ…』
「わかってないなぁ…今、内科医よりも整形外科医のほうが求められてるんだから」
『なんでだよ?一番足りてないのは産科だろ?』
「日本ではね」
『え?』
だって俺は、将来アフリカに行くんだから──
「さあ。そろそろ仕事行かなきゃ」
『…なんだよ。気になること言うなぁ』
それに、智がまた「仕事」で怪我をしたら…
今度こそちゃんと治療してあげられる。
「ふふ…まあ、まだ一人前の整形外科医になってもないから…」
『何いってんだよ…今だって立派に先生してんだろ』
「まあね…でもまだまだ学ぶことは多いよ」
『そりゃ、俺達まだ駆け出しだからな。社会に出てまだ数年なんだから』
「だな。まだまだひよっこだよ」
『お互い頑張らないとな』
「ああ」
選択する科や専門科により年数が違うが、専門医になるには初期臨床研修を終えてから最短でも4年はかかる。
専門医資格が取れなかったら、その期間が長くなっていく。
まだまだ先は長い。
「また、連絡するよ」
『ああ。余裕があったら飯でも行こうぜ?』
「うん。楽しみにしてる」
通話を切ると、がらんとした部屋を見渡した。
ここに、智がいたのはもう何年も前になる。
あの頃はこの部屋がとても温かい住処に思えたのに。
今はただ、からっぽのおもちゃ箱みたいに思える。
「…服、着よ…」