第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
だから早く嫁を貰えという話になる。
上からも言われるし、友人の間でもそういう話になる。
仕事に邁進したいんなら、嫁をもらって家のことを任せろって…
学生時代にはそういう話にはならなかった。
なぜ就職した途端そういう話になるのか、俺にはよくわからなかった。
だって、それって自分ができないことを嫁とかパートナーに、無料(ただ)でおっかぶせろってことだろ?
そのパートナーにやりたい仕事があったらどうするんだろう?
どうして自分の人生なのに、丸ごと放り出すような真似ができるんだろう?
そう潤に言ったら涙が出るほど爆笑されたから、二度と潤には聞かない。聞いてやるもんか。
『それが、翔の良いところだよ』
不意に智の声が耳に蘇って来た。
目を閉じて、浴槽の淵に置いた風呂用枕に頭を凭れかけた。
自然に笑みが溢れてしまう。
智の笑い顔も、まぶたの裏に浮かんできた。
俺の感覚は普通のひととはちょっと違うらしい。
智はそんな俺の突拍子もない発言(?)に、喜んでいた。
なんでそんなことが嬉しいのか、一度聞いたことがある。
『翔の大事にしてることがよくわかるから、嬉しいんだよ』
そう言ってる顔が、とてもしあわせそうだったのを覚えてる。
「智──」
ねえ、今…あなたはしあわせにしてる?