第3章 Mark 3:29
「やめろーーーーっ…」
息が苦しい
一体、ここはどこだ
暗い暗い部屋の中
奈落の底なのか
どうして俺はこんなところに
「智!?」
ガタっと大きな音がして、ドアから男が入ってきた。
「ねえ、どうしたの!?」
ああ…
あああ…
翔
「俺…俺、翔…俺は…」
奈落なんかじゃない
ここは、奈落なんかじゃ…
「落ち着いて。智、息をちゃんと吐いて」
翔の冷たい手が俺の頬を包んだ。
その途端、猛烈な吐き気が襲ってきた。
「ううっ…うっ…」
思わず手で口を塞いだ。
「あっ…智っ…」
何も庇わずに動いてしまったから、腹に引き攣ったような激痛が走った。
「ぐ…ううっ…」
「どうしたの!?気持ち悪い?吐きそうなんだね?」
なんとか頷くと、翔は慌てて部屋を飛び出して洗面器を持って戻ってきた。
「ここで吐いていいから!上向いちゃだめだよ、詰まるから!」
俺の顔を横に向かせると、洗面器を口元に充てがった。
「さあ!我慢しないでっ」
「ううっ…ぐっ…」
吐きたいのになんにも出てこない。
なのにえずいてしまって、その度に腹の傷に響いてやばそうな痛みが走った。