第3章 Mark 3:29
どうして?
どうして、こんなことになったの?
足元に黒い水が流れてくる
周囲の焦げ臭い匂いが体に染み付いて取れない
『この家に住む、高校生の長男の行方について、警察は──』
煩い
煩い
ニュースの音がノイズになって頭の中に渦巻く
『なんらかの事情を知っているものとして、行方を追っています』
知らない
俺は知らない
なんにも知らないんだ
『怖いわねえ…あの家の子が殺したんでしょう?』
『どうやら家庭内暴力があったって』
『不登校だったらしいわよ』
『そういえば、夜中に一人で歩いているのをよく見たのよ』
すれ違うおばさんたちの声が聞こえる
ちがう
ちがわない
『あいつ、家族のことが憎いって』
『父親とうまくいってないって聞いたよ』
『お姉さんのことも口うるさくてウザいって』
かつて同級生だった人たちの声
あいつも、こいつも、あの子も
どうして?
なんでそんなこと言うの?
本心から、そんなこと思ったことなんて
ない
熱い
熱いよ、智
助けて
一緒に、死のうよ