第18章 Genesis1:1-5
「ありがとう、爺さん。また頼めるか?」
「…いいけどよ。俺は暇だから…」
そうは言っても、引退する原因になった仕事中の事故で負った足と腕の怪我は、完全には治らなくて。時々右足を引きずるように歩いている。
弟子のような俺達には言えないみたいだけど、現役の頃のようには色々と行っていなくて、苦労しているようだ。
「…そりゃ、暇だろうけどさ」
「なんだとコラ」
それなのに俺は、こんなことを頼んでいる。
それは意外にも、西島からの提案だった。
俺の心の平安が保てるというのと、雅紀や和也が余計な手出ししていないか見張る意味もあった。
「…ごめん…」
「なんで謝ってんだよ。俺は好きでやってんだよ。老後の小遣い稼ぎにもなるしな」
「もう老後だろ?」
前を見たまま「ばーか」と笑うと、車内はまたしんとした。
カーラジオからは相変わらず古い洋楽が流れていて、爺さんは鼻歌を歌い始めた。
「これ、なんて曲?」
「ああ?こりゃな…カーペンターズだな」
「カーペンターズ」
「知らないだろ。智の生まれる随分前の曲だからな」
「でも聴いたことある」
「いい歌だからな。今でもテレビで使われてる」
どこで聴いたんだかは思い出せない。
なにについて歌っている曲なのかもわからない。
でも、懐かしいような。
鼻の奥がツンとするような。
そんな曲だと思った。