第18章 Genesis1:1-5
無理のない運転の車内は、誰も喋らないけど居心地は悪くなかった。
カーラジオからは、古い洋楽が流れている。
「けほっ…」
「智、どうした?」
「なんでもない」
「おめえもよ…なんでもなかねえだろ。着いたら西島にちゃんと言えよ?」
「わかったよ…」
大通りからごちゃごちゃした細い道に入ると、和也はゴソゴソと動き出した。
「智、連絡ちょうだいよ?」
「ああ…」
「着いたぞ、和也」
「ありがと爺さん。あとの荷物は雅紀んとこにお願い」
「わかった」
レザーのリュックだけ持つと、和也は車を降りていった。
この近くの安アパートにでも今は住んでるようだった。
見送っていると、後ろも振り返らずに手だけこちらに振って見せた。
「ほいじゃ、次は西島んとこだな…」
「爺さん」
静かに車を出すと、爺さんは顔だけこちらに向けた。
「俺に会いたかったんじゃなかったのか?」
「そりゃこっちのセリフだろうが。偉くなったもんだなあ…智よ」
「…悪かったよ」
ふっと笑うと、前に目を向けた。
「元気そうだぜ」
「そっか」
「あの顔の濃いお友達と、ここんとこ頻繁に会ってる」
「ああ…あの同級生の?」
「松本ってヤツ」
松岡の爺さんには、翔のことを見守って貰うよう頼んでる。
詳しいことは伝えていない。
ただ俺の命を救ってくれた恩人だと話してある。
「…そっか…」
あれから何年も経つのに。
例の友達と、まだ付き合いがあるようだ。
なぜだか嬉しかった。
同時に
軽く嫉妬する気持ちも湧いてきて。
胸のあたりがちょっと苦しかった。