第18章 Genesis1:1-5
情なーい顔をしている松岡の爺さんを見て、和也がケタケタと笑っている。
「なになに?モウコハンってなんなの?」
「あー…もういい。もういい本気で」
松岡の爺さんはひらひらと手のひらを振って話を終わらせた。
「なによそれぇ」
和也が松岡の爺さんにうざ絡みをしているが、俺はどこかからいい匂いが漂ってきていて腹がぐうっと鳴っていた。
「なあ、飯…」
そう言って二人の方を振り返ったら、二人のすぐ近くに知っている顔があるのが見えた。
キョロキョロと案内板を見ている。
電車の駅への出口でも探しているのか。
咄嗟に被っていたキャップのツバを引き下げ目線を下げた。
「智?」
少し顔を上げて目で合図すると、その知った顔へ和也も目を向けた。
松岡の爺さんはじっと俺達を見ている。
あれ?あいつ?と二度ほど和也が瞬きをする。
頷くと、どうする?みたいな顔を俺に向けた。
あれは、父親の会社に居た課長だか係長だった男だ。
名前は覚えていない。
どうやら俺達と同じ便に乗っていたようで、眠そうな目を擦っている。
あの日、きな臭いニオイの漂う家に飛び込んできた男の社員は、この人の直属の部下だったのをぼんやりと思い出した。
あのときの声が、耳に蘇ってくる。
『君がやったのか──!?』