第18章 Genesis1:1-5
葉っぱの一枚も落とさずに和也を宥めていたら、かすかに足音が聞こえてきた。
「シッ…」
和也と俺は黙り込むと、その足音に集中した。
そっと和也が指を一本俺に向けてきた。
この足音は一人、という意味だ。
俺も同意見だったから、一本指を出した。
いつもはボディーガードを従えて、この時間にランニングをしているんだが、たまに今みたいに一人で出てくるときもある。
そっと和也の肩に人差し指で触れると、音の方角を確認した。
俺の背後の方角から来ているから、俺がこの現場のリーダーとなった。
目を閉じてターゲットの足音に集中する。
ランニングシューズのソールの音が近づいてくる。
周囲には物音がしていない。
千載一遇のチャンス──
イメージしている通りの位置にターゲットが走り込んだ瞬間、和也に合図を出した。
ゴムの命綱をつけた和也は木から飛び降りて、ターゲットのドタマを直撃した。
「よし」
悲鳴を上げるかと思っていたのに、やけに緊張感のない間抜けな唸り声が聞こえてきた。
おい。仕損じてないだろうな?
そう危惧したが、そのまま命綱の反動で木の上に飛び上がって帰ってきた和也は余裕の笑みを浮かべていた。
「Damn it…」
まだなにか言っている。
思わず和也と二人、目を合わせた。
脳天をかち割ってやったのに、案外しぶとい。
しばらく棒立ちになっていたターゲットは、派手な音を立てて地面に伏した。
「お疲れ」
「これでやっと日本に帰れる…」