第3章 Mark 3:29
まだ医学生のくせに、一端の医者の顔をした。
「体がただでさえ弱ってるとこにあんな傷を負って…無事に治るわけないだろ?だから俺…いろいろ考えられる限りで、一番を優先したつもりだよ」
翔が淡々と述べる状況は、わかってはいたが。
その青ざめた顔に、自分の今の深刻さが伝わって来るものがあった。
「そりゃ俺は不器用だし、慣れてないよ」
「……」
「でも目の前で命を落としそうな人を見捨てるほど、人間終わってないと思うんだ」
「…当たり前だ」
「え?」
「人間終わってるわけなんか、ないだろ」
「智……」
それどころか
俺の何十倍も、何百倍も
これからの人間で
必要とされる人間で
誰よりも明るい場所を
たくさんの人の手を取って歩いていく
そんな人間なんじゃないのか
「だから…ちょろまかしたって、平気」
「翔…」
「智の命を救えたもん。俺、だから捕まってもいい」
「ちょっと、翔…」
「まあ、親が警察にでも訴えたら、だけどさ。…でも、あんまり看護師とかの管理ちゃんとしてないから、盗難があったって警察に届け出されたら、バレちゃうよね?俺、終わっちゃうかなあ?」
終わっちゃうかなあって…
「やっぱ、後先考えないのってだめだね!」
ものすごい明るい顔で、翔は笑った。
「おまえねえ…力抜けるわ…」
「なんでさ!?」