第3章 Mark 3:29
言いたくない、か…
まあ本当はそのくらい慎重になっていて欲しい。
俺を拾ったのも、なにかの心の迷いであって欲しい。
じゃなきゃこんな隙だらけで、世の中生きていけるのかって。不安になる。
「はい、あーん」
「もぐ…」
噛むほどじゃないんだが、咀嚼して飲み込んでみる。
それを見て翔は笑う。
その笑顔が
美しいと──
「…ほんとは、親のやってる病院から盗んできたんだ」
「え…?ちょ、おまえ」
やっぱなにかの迷いじゃなくて、バカなのか。
「そんな馬鹿正直に言わなくても…」
「俺、跡取り息子なの。親はちょっとした規模の病院やってるんだ。でもさ、ちょっとした規模だから逆に結構、隙もあってさ。だからそこからちょろまかしてきてんの」
「ちょろまか…」
「そ、法律違反」
「おま」
翔の顔が途端に強張った。
べちっと空いている手で俺の額を叩いた。
「でも、そうじゃなきゃ」
「え…?」
「智は絶対死んでた」
「……」
強張った顔が、段々と青ざめていく。
「…合併症起こして、死にそうになってたんだ…」
その青ざめた顔はしっかりと正面から俺を見据えている。
「あの創傷…腹の傷は不衛生なとこでついたね?それに智は酷い風邪も引いてた。だから、強い薬剤が必要だった」