第16章 Matthew10:34
サイドチェストの引き出しからいつも使っているローションとゴムを取り出した。
今日の午後にだいぶ使ってしまったようだ。
ローションの容器は軽かったし、ゴムの箱をあけたら後一個しかなかった。
箱からゴムを取り出すと、智に手渡した。
「…智、これ最後の一個だった」
「え…?そんなに使ったか?」
「うん…」
「なんか…ごめん…」
叱られた子供みたいに、あからさまにしょんぼりとして。
そんな姿が年上なのに可愛いなんて思ってしまう。
「まー…今日の昼間は歩けなくされたもんなー」
「ほんとに…なんと言っていいか…」
「冗談だよ」
デコピンのきつめのやつを一発、智のデコに見舞ってやった。
「くぉ…」
悶絶している智をベッドに押し倒して馬乗りになった。
「お陰で体力的にも、あと一回ってとこなんだからね?」
「…まじでごめん」
そっと智は俺をベッドに寝かせた。
「まじで姫みたいに大事に扱う」
「姫に会ったことないでしょ」
そう言ったら、凄く笑って。
俺のこと抱きしめながら、智はしあわせそうに笑った。
「じゃあプリンス…」
「それはなんか違う人みたいになるからやめて」
ふたりで笑い転げて。
笑うだけ笑ったら、また抱き合って。
セックスで繋がってるわけでもないのに、ひどくしあわせだった。