第16章 Matthew10:34
「翔…」
今はまだ、このときだけは
智は俺のものだから
「抱きしめて」
ぎゅっと智の腕が俺を抱きしめてくれた。
さっきよりも体が密着して。
智をより感じることができた。
「もっと」
ぬくもりが直に伝わってくるのが嬉しかった。
智じゃないと…
もう、だめだよ
「うん」
裸で抱きしめてもらっても、きっと智以外の人じゃこんなに嬉しく感じることはないだろう。
「あり…がとぉ…」
喋ってる途中で、泣けてきて。
でもそれを悟られたくなくて。
なんとか声を振り絞ってお礼をいうと、熱を握りしめていた手を動かした。
「あ…翔…」
「俺も、触って…?」
少し体を離して俺の目を覗き込む智は、心配そうな顔をしてて。
そんな顔に、無理やり唇を押し付けた。
「早く、俺も触って」
「ん…」
性急に高めあった先にあるものが、涙なんて消してくれる。
だから智
早く俺の中に入ってよ
「ん…、翔、俺もう…」
「智…」
お互いを擦る手を、今度は止めることなく。
俺達はその頂きに登った。
無言でたどり着いたそこは、慣れたものじゃなく。
これから来る大きな快楽の予感だった。
荒い息を吐き出しながら、智は俺達の手をティッシュで拭いた。
まだ快感の余韻に浸っていたかったけど、俺もその手をサイドチェストに伸ばした。