第3章 Mark 3:29
また数日が過ぎた。
体は思うように回復していない。
酷い風邪になっていたのが堪えたのか。
それとも腹の刺し傷がいけないのか。
体力も回復が難しかった俺は、いつまでもベッドに横になったままだった。
力を入れようとしても入らなくて。
起き上がれなかったんだ。
この頃には、もう今が何日かとか知りたいとも思わなくなっていた。
ただこの何年かぶりの、この穏やかな時間に身を任せて……
「さぁとし…起きてよ」
「…むう…」
「もう焦げ臭い匂いしないから、今日こそ食べようよ?」
「いやまだ…食欲が…」
「点滴ばっかじゃだめだって…食べてみてよ」
翔は俺に普通の食事をさせようと苦労している。
「まだ食欲がないんだって」
「…今日のはレトルトのおかゆだよ」
「食べる」
「……」
ちょっとだけ、翔は不器用で。
作ってくれる飯は不味くはないんだけど、美味くもない。
たかがお粥だっていうのに不思議だ。
あまつさえ焦がして、微妙に食えない味にする天才でもある。
どうして米を水で煮込むだけなのに、味の差が出るんだろう。
本当にこれは才能としか言いようがない。
「はい、あーん」
「あーん……」
お粥のほかに、市販ではみたこともないような紙パックに入った栄養補助ドリンクやら、点滴やら…多分これは病院で使ってる物じゃないかと思う。
一体何処から手に入れてくるのか、これまた不思議で。
でも医学部に行くようなボンボンなんだから、もしかして…
「どう?美味しい?」
「ああ、今日はホントに旨いぞ」
「そりゃ…市販品だからねえ…」
今日は美味かったから褒めてやろうと思ったらこれだ。
「市販品…」
心のなかではすまんとは思っているんだが。
申し訳ないが、焦げ臭い粥はマズイ。
この上なくマズイんだ。
「…他のジュースとかは市販品じゃないみたいだけど…?」
話を変えようと、あのプロっぽい物資はどこから仕入れてるのか、探りを入れてみた。
「……そりゃあ、俺が仕入れてくるからね?」