第16章 Matthew10:34
「翔といると、いろんなことに気づく…」
「ん?」
「今まで俺が一人じゃ気付けなかったこと、いっぱい気付ける…翔といると毎日がクルクル回って忙しない…」
「なにそれ」
ぐっと智の熱を握った。
「ちょっ…」
「落ち着けないってこと?」
「違う…楽しいってこと…」
「楽しい…?本当に…?」
智がそんなふうに俺と居る時間のこと思ってくれてるのが意外だった。
辛いことも思い出させたし、智にとって決していいことばかりを言ってきたわけじゃない。
喧嘩だってしたし、八つ当たりだってしてしまった。
なのに、俺との時間を楽しいって思ってくれてたの…?
「ホント…嘘は言わない」
そう言って、そっと俺の額にキスしてくれた。
でもそれこそ智の優しい嘘じゃないかと思った。
「俺の…目を開いてくれて…」
「え?」
「ありがとう」
目を開くって…
「俺、なにも…」
「翔じゃなきゃ、多分だめだったと思う」
それが具体的になにって言わなかったけど、智のキスは暖かくて。
目を閉じていたら、智のキスが顔中に降り注ぐように届いた。
「俺も…智じゃなきゃ…だめだよ…」
言葉にしてしまったら、涙が出そうになった。
胸が詰まったように苦しい。
それでも…今はまだ。