第16章 Matthew10:34
智…
ありがとう
きっと俺がそうしたように。
俺が道を見失わないよう。
智も松明でこの先を照らしてくれたんだね。
おまえには、どこにでも行く道があるって──
でもそれは、智…
あなたにも言えることだよ。
自由になって
例えそれが俺のいない場所であっても
それは俺の…
永遠の願いかもしれない
「翔…」
「ん…?」
こつんと、智がニット帽の額を俺の額にくっつけた。
「抱いても…いい…?」
智の腕が引き寄せてくれる力の強さを、忘れないでおこうと思った。
「いいよ…?」
吸い込まれるような漆黒の瞳の、その奥は…
俺を思いやる心であふれる楽園みたいな色をしていた。
「ありがとう…」
ほうっと吐き出された息は、そのまま俺の体内で智になる。
はやく、もっと
ちょうだい
智
智の手を取って、手袋を剥ぎ取ってしまった。
それを俺の頬にあてると、温かい。
「智…?」
「ん?」
がぶっと指を噛んでやったら、血が少し出た。
「いてっ…なにするんだ、翔」
べろりとその血を舐めたら、滾った。
「ぜんぶ…欲しい…」
俺の顔を呆然と見ていた智もまた、滾ったようだった。
「ああ…やるよ」