第16章 Matthew10:34
「全部終わったら、宇宙で会おうか」
「へ?」
突拍子もない申し出に、二の句が継げなかった。
「ほら…全部…なにもかも終わる頃には、俺達年寄りになってるだろ?きっと」
多分それは智の希望的観測なんだろうなと思う。
「そうだね。俺も智もしわくちゃのジジイになって…会ってもわかんないかもよ?」
「だからさ…もしも宇宙に普通に旅行行けるようになってたら…俺、ここに招待状を出すよ。それで一緒に宇宙旅行に行こうぜ?」
無邪気にニット帽を被りながら月を見上げて笑う智は、ただの28歳の男で。
「…それで、地球に帰ってきたら、両腕を地球人に抱えられながら歩くんでしょ?」
「ぶっ…」
そんなことよく覚えてたなって、智は大爆笑してくれた。
「あんな長い時間、宇宙空間に旅行することなんてできないだろうから、多分大丈夫だよ…」
目尻に溜まった涙を拭いながら、智が俺の手を握った。
「だから…しわくちゃのじいさんになったら…宇宙で、待ち合わせな?」
「うん…わかった…」
智の腕が俺の肩を引き寄せた。
重なった唇は、冷たくて暖かい。
「約束ね…?」
「ああ…約束な…」
智の温かい呼気が俺の中を満たしていく。