第16章 Matthew10:34
殺されたかもしれないという核心部分はぼかしてH.Kさんのことを説明したら、智は神妙な顔つきになった。
「そっか…そんな人が居たんだな…」
「それにね、智」
「ん?」
「智の無罪を信じてる人、まだ他にもいるんだよ?」
「…本当か…?」
信じられないという顔をして、手を口に当ててしまった。
「本当だよ…その無実を信じてる親戚の人にお墓の場所もちゃんと教えてもらったんだ」
「え……」
今日、帰り際に潤に教えて貰った、府中の墓苑の名前を智に伝えた。
「今、紙に書くね」
黙り込んでしまった智を見ないようにして、リビングにメモ帳を取りに行った。
その場で潤から聞いた墓苑の名前と、区画を書いて戻った。
「これ、仕舞っておいて…」
智の座るダイニングテーブルにメモを置いた。
智はそのメモを見て、俺を見上げた。
「翔…」
「お墓は大野の親戚の人が面倒見てくれてるんだって。良かったね」
そう伝えたら、智の目に涙が溜まった。
「ありがとう…」
それは親戚の人に対するものか、俺に対するものか…
智の目からはまたきれいな涙が零れ落ちた。
もしも俺に対するものだったら、実際に動いてくれているのは潤だ。
本当にジャーナリストになる覚悟なんだなって、この件でよくわかった。
彼がいなければ、ここまで智のことも調べられなかったかもしれない。