第3章 Mark 3:29
「…そんな訳ねえだろ…」
あいつは男だ。
そりゃまだ20歳だっていうから、体の線は細いし。
色白で目が大きいから、暗闇で出会ったら女と間違えるようなツラはしてるけど。
マリアだなんて…
「どうかしてる」
でも、あっさりと却下できない自分もいて。
なかなかどうして。
傷と風邪の菌で頭ん中、おかしくなってるんだ。
「…そう、俺はどうかしてんだ…」
──だから、いい
本当は、雅紀へ無事だって連絡入れなきゃいけない。
あの後どうなったのかの確認だってしなきゃいけない。
でもあの日からスマホの電源を切ってそのままにしてある。
何度も雅紀や和也から着信があったらしいのも放置してる。
やらなきゃいけないのに。
やる気にならない。
翔の身に危険が迫ることがわかっているから──
それに……
スマホのほかにGPS付きの物もないから、居場所を特定されることはないだろう。
そりゃ、雅紀や和也には心配はかけるかもしれないけど…
このまま
もうしばらくこのまま
俺が住んでいる世界とは、まったく関係のないこの世界で
もう少しだけ、過ごさせてくれないか
「智…味付け…って、寝ちゃった…?」
だってここは、明るい。
「ふふ…寝ちゃってるね。大丈夫だよ…今日こそは焦がさないからね…起きたら楽しみにしててね…」
天国みたいに、明るい。