第16章 Matthew10:34
「英語はって…日本語ですら怪しいのに」
「じゃあスワヒリ語は?」
「もうどんな言葉かすらも想像つかねえ」
「スワヒリ語に決定だね」
「人の話を聞け」
思わず二人で目を合わせて吹き出した。
「夢…みたいな話だな…」
そう言って、笑いながら俺の手を掴んだ。
「…それでもなにもない俺には充分な荷物だ」
「智…」
また微笑むと、智はベッドの上で体を起こした。
「雅紀たちは?」
「もう帰ったよ。明日、お昼ごろに迎えに来てって言ってある」
「そうか…」
壁にかかっている時計を見上げた。
「暗くてみえねえな…今、何時?」
「あ…何時だろ」
腕時計を見ると、夜の7時を過ぎた所だった。
もう随分時間が経ったように感じていたけど、まだこんな時間だったのか。
「飯、作ってやる」
「え…いいよ…」
「いいから。俺が作るから、おまえはここで寝てろ」
ちょっとでも、離れたくないのに。
そう思ったのが顔にでていたのか、智は苦笑いして俺の頭にキスした。
「じゃあ、リビングに居ろよ」
そう言って、そろりとベッドから立ち上がった。
まだ足がうまく動かない俺を支えて、リビングまで行くと俺をソファに座らせてくれた。
今日は美味しいもの作ってやるって、智は微笑んだ。