第16章 Matthew10:34
「生きる……?」
「生きて…智。…俺のために」
もどかしい。
俺のためになんて言葉、智に錘をつけてるようなもんだ。
智の意思なんて関係ない、ただ言葉で雁字搦めにする。
「俺のこと好きなら…生きて…」
それでも
そんなことをしてでも
智には生きていて欲しい
例えその手を、罪に染めても
「お願いだよ…智…」
「翔……」
俺は残酷だ。
「一緒に俺も、苦しむから」
本当に智の苦悩なんてわかりゃしないのに。
「どうして…俺…俺は、翔…」
「一緒に、生きるから」
「どうして…」
力なく呟く智の目からは、とめどなく涙が溢れている。
どこまでも透明で、深い海みたいに果てが見えない。
こんなときなのに、十字架に磔にされたイエスのように窶れた顔の、濁りのない美しい瞳に心奪われた。
「想像して…俺がもし死んだらどうする?」
「え…?」
見開かれた目は、俺をまっすぐ見つめる。
「もしも罪を背負って、その重みに耐えきれず自分で死んだら、どうする?」
「翔が…?」
「そうだよ…この世のどこにも、居なくなったら…」
「そんなの嫌だっ…」
「同じなんだよ」
「翔…」
「俺も智が、どんな形でもいいから生きていて欲しい」