第3章 Mark 3:29
「だっ…だよねえ!そう思っとく!」
翔は、頭がいい。
多分俺が後ろ暗いことやって生きてる人間だと、もう出会ったときに気づいていたと思う。
俺のプライベートに過剰なほど気を使って侵入しないようにしてた。
それも、俺に気を使っていると悟らせるような方法を選んで。
わざとそうやっておいて、必要以上に踏み込みませんよと常時言葉と態度で示していた。
若いのに、狡猾でもある。
医者になろうというだけのことはあるのかもしれない。
俺が用心深く疑り深い人間だということを、見抜いているんだ。
「…ああ…そう、思っとけ」
「じゃあ、智。今日の晩ごはんは重湯だよ」
「……」
「なにか不満?」
「いや、まだ飯は…」
「重湯だから飲めるでしょ?智」
「一応年上だから、さんつけろよな」
「…大人用おむつ…」
「わかった。呼び捨て許可する」
翔は立ち上がると、上機嫌に鼻歌を歌いながら歩き出した。
「まだ熱あるから、大人しくしててよ?傷だってちゃんとくっついてないんだから」
「ああ…わかったよ」
「じゃあ、ご飯作ってくるね」
部屋のドアから翔が出ていくと、途端に部屋が寒く感じる。
温かい…
なぜだか、翔のいる空間は温かく感じる。
不思議でたまらない。
それは、あいつがマリアに似てるからなのか。