第16章 Matthew10:34
「そんな…西島に智を預けるの!?」
「預けるわけじゃない。しばらく俺と一緒に通うってだけだ」
「やだ…!やめてよ!もし西島に襲われたらっ…」
はーっと大きくため息を付くと、雅紀さんは少し首を傾げて俺を見た。
「俺がそんなやばいことすると思う?」
「え?」
「ケツ掘られるってわかってて預けるわけねえだろ」
「じゃあなんで…」
「あれは冤罪だったんだと」
「冤罪?」
「患者のほうがハッテン場?ってとこで遊んでる西島に一目惚れして、探偵使って東陽病院で医者やってるのをつきとめた。で仮病使って通い詰めたけど、西島は靡かなかった。だから襲われたって嘘をついた。…これがあのスキャンダルの真相」
頭がくらくらする。
人生で初めて他人に殴られたのを始め、次々に理解できないことをこの人たちはする。
「そ…んな…」
「そう。そんなことで、あの西島って精神科医は人生狂わされたってわけだ。幸い、懇意にしてたヤクザの患者がヤツを拾って、ヤクザに仕立て上げたってわけ」
おもむろに雅紀さんはモッズコートの懐に手を入れた。
手が出てきたと思ったら、そこには大振りなサバイバルナイフが握られていた。
大きな音を立てて、そのナイフをフローリングに突き刺した。
「あんたも、人生狂わされたくねえだろ?」
にっこり人のいい笑顔を俺に向けている。
理解できない。
やってることと言ってることと表情がバラバラで。
「…でもアンタに手ぇ出したら、智が俺達をバラすっていってるからな…」