第16章 Matthew10:34
「あー…」
なんか色々わかった気がした。
俺の弟を誘拐したのも、あれは嫉妬からくる行動だったんだ。
この和也って人は、やっぱり智のこと好きなんだ。
そして、さっき智がリモコンを投げつけた人は幽霊なんかじゃなかった。
この和也って人だったんだ。
疑問がやっと解けた。
「なによ、その顔」
「いや…ごめん」
「そのしたり顔が嫌いなんだよっ」
「おまえ、『したり顔』がわかるなら『マス掻く』もわかれよな」
「は!?」
雅紀さんが絶妙に俺達の会話にチャチャを入れてくるから、緊張がぷつりと切れてしまった。
「うわっ」
急に足の力が抜けて床にへたり込んでしまった。
「…なにやってんのよ?」
怪訝な顔をして和也って人は俺の目線に合わせてしゃがみこんだ。
「まあ、いいけど。どうせ智に歩けなくされたんでしょ」
ゾクリとした。
にたりと笑う顔は、さっきまで雅紀さんと言い合いをしていた少年には見えなかった。
「そんなことアンタに関係ないだろっ…悪趣味だっ」
思わず背筋が凍りそうなのを振り払うために大きな声を出した。
「悪趣味ぃ…?」
にたりと笑った顔のまま、和也は俺の顔を殴りつけた。
「和也っ!」
雅紀さんの怒号が響いたかと思ったら、大きな音がして。
顔を上げたら和也は吹っ飛んで床に伸びてる。
「…すまない」
ぼそりと謝る雅紀さんは、ちっともすまないって顔はしていなかった。