第16章 Matthew10:34
「智、今日渡してもらう」
部屋に入ってくるなり、雅紀さんは言い放った。
感情の見えない薄笑いを浮かべている。
その横では感情丸見えの和也ってひとが俺を睨んでいた。
「は?どういうことです。智はまだ俺が治療…」
「セックスするほど元気になったって聞いてる」
「えっ…」
「ああ、コイツがな。見たって」
親指で和也って人を指した。
「見たって…忍び込んだってこと…?」
「ああ。悪趣味だろ?」
嘘でしょ。
セックス見たって。
こういう人たちの神経って一体どうなってるんだ。
「見てない!聞いただけだって!やめてよ変態みたいに言うの!」
「じゅーぶん変態だろうが。どうせそれ聞いてマス掻いてたんだろ?」
雅紀さんがとんでもないことを言い放ったけど、和也ってひとははてなを頭の上にいっぱい浮かべている。
「は?なに?その『マス掻いてた』って」
「え?」
「え?」
思わず雅紀さんと同調してしまったけど…
若い子(俺も若いと思うけど俺よりも若く見える)にはそんな言葉わかんないか。
雅紀さんは俺の顔を見ると、苦笑いした。
あ、なんか初めて普通の人間臭い顔見たかも。
「オナニーしてたんだろ?ってこと」
…良く考えたら、なんで俺達のセックスで和也って人がマスかくんだ?もしかして…
「失礼な!勃起したけど、そんなこと家帰ってからするよ!」
もしかしなくても、ゲイの人だった。