第16章 Matthew10:34
体が凍りついたように動かないのに、コーヒーカップを持っている手はブルブルと震えている。
見たくないのに、目は揺れたカーテンから離せない。
カーテンはふわりと膨らむと、するりともとに戻っていった。
「な、なんだよ…風か…」
落ち着こうとコーヒーカップに口をつけようとした瞬間、インターホンが鳴った。
「わっ…」
驚いてコーヒーが少し溢れてしまった。
「もお…なんだよこんなときに!」
八つ当たりに近い雄叫びを上げながらモニターをみると、そこには知っている顔。
「雅紀さん…と、和也ってひと…?」
嫌な予感がした。
でも出ないと、押し入って来られるような気がした。
震える足を殴りながら、なんとかモニターの場所まで行った。
応答すると、中に入れろという。
こんな事、今までなかった。
心がざわざわする。
「でも今、智は寝てて…」
『いいから。とにかく中、入れてくんない!?』
和也ってひとが雅紀さんを押しのけて喋ってる。
『おまえ引っ込んでろって言っただろ!』
ぼこっと鈍い音が聞こえて、雅紀さんが和也ってひとの頭を殴った。
『ひっど!ひっどーーーーい!』
『やかましい!』
そんなとこで騒がないでほしいんだけどな…
でも少しホッとした。
「わかりました…」
下のオートロックのドアの鍵を開けると、二人はすぐにドアの奥に消えた。