第2章 Matthew 6:8
男が近づいてきた。
真っ白なセーターの腹には、血がついてた。
俺の血だろう。
もうあれ着られないよな。
悪いことをした。
ぼんやりとそんなことを思ってたら、男が額に手を置いた。
冷たくて気持ちよかった。
「どうしても、病院は行きたくないんだよね?」
もう声も出せないから、頷いた。
それが腹の傷に響いて激烈な痛みが走っていった。
「ううっ…」
「大丈夫…なわけないか」
頷くことさえもできなくなった。
うめき声が勝手に口から漏れてくる。
もう意識も飛びそうだった。
「よく、聞いて」
男は屈むとベッドサイドに跪いた。
そうして俺の顔を覗き込むと、真剣な顔をした。
「俺は、医大生だよ。でもまだ医師免許は取れてない。医者には程遠いけど、外科の実習は何度かやってる。まだ人は縫ったことないけど、豚肉を縫って練習はしてる」
ふうっと息をひとつ吐いた。
「……ここには痛み止めもなにもないけど、傷口を縫うことは、できる」
俺の手を握ると、祈るような形になった。
「抗生物質もないし、市販の消毒薬しかないし、輸血用の血もない。それでもいいなら、俺が治療してあげる」
何を言ってるんだ
これ以上いけない
俺に関わっちゃいけない
だから家に
家に帰らないと
「お願い…死んじゃうよ…」
か細い声が聞こえてきて。
俺の手を握る力が強くなった。
そのまま男が顔を上げた。