第12章 Ave Maris Stella
『わあった…あの記事だな…』
「潤、頼みがあるんだ」
『待った。言わなくて良い』
「え?」
思わず、立ち止まってしまった。
後ろを歩いていた人が驚いて避けていくのに頭を下げた。
『調べてみるよ。なんたって翔の好きな奴のことだからなあ』
「ちょっ…」
『いいって。皆まで言わなくていいから』
「潤、あのなあ!」
『こりゃ、楽しみが増えたな。桜井総合病院に入院する時は、医療費まけて貰わなきゃ』
なんだか脱力してしまった。
再び駅に向かって歩き出す。
「ああもう…タダで入院すればいいだろ…」
『言質とったからな』
「その代わり、治療は俺がするよ?」
『は?』
「それでもいいなら、な?」
『ばかじゃねえの…もお…』
くくくと笑う声が聞こえてきて、またがっちゃーんという派手な音が聞こえてきた。
『く…うぉ…』
「大丈夫か…?潤」
またどっかに脛でもぶつけたんだろうか…
『も、もお。行けよ…』
「ああ。また今夜にでも連絡する」
『わかった…くぅ…またな…』
通話を切って、駅まで走った。
心臓がドキドキしてる。
昨日と同じようでいて、違う。
新たな時間の流れが始まった瞬間だった。