第12章 Ave Maris Stella
「恨んで…ない…?」
「そうだよ…良く考えてよ。そんな訳ないでしょ?智はなにもしてないんだから」
「なにもしてないから…恨んでるかと思ってた…」
「だって気を失ってた智になにができるのさ?それに現場にもう一人居たじゃないか」
「え?」
「お父さんの会社の人、居たんでしょ?」
「…うん」
「その人が助けられなかったんなら、智だって助けることはできなかったんじゃないの?」
「あ…」
智の頭の中が、ぐるぐると混乱してるのがよく見て取れた。
多分…今の今まで、智はこんなふうに考えることができなかったんだ。
自分が家族を殺したと思って、自責の念が強すぎたんだ。
それとご家族を一度に亡くしたショックが酷すぎたんだと思う。
だから、今まで誰にも言うことができずにいたんだろう。
そしてこの事件について考えることを拒んでいたから、こんな簡単なことに気づけなかったんだ。
そんなことを思っていたら、スマホのタイマーが派手に鳴り出した。
「…びっくりした…」
智と暮らすようになって、うっかりして家を出る時間を逃すことがあったから、最近タイマーをかけることにしたんだった。
「もう、家を出なきゃ…」
今日は実習があるから、どうしても休むわけにはいかなかった。
「…ごめん。飯食べてないじゃないか…」
「そんなのどうってことないって」
「俺のせいで…すまん」
「謝ってもらうことなんてないよ」
急いで着替えようと立ち上がったら、シャツの裾を智が引っ張った。
「…ありがとう」
照れながら上目遣いで俺を見上げる、その顔は
百年経っても忘れることができなそうな
そんな笑顔だった