第12章 Ave Maris Stella
「そう。犯人がいるんだよ、智」
そう言い切ると、智は弱々しく俺を見た。
「…考えたこと、なかった…」
「うん…そのくらい智が亡くなったご家族に関して考えることは、自分の心を傷つけることなんだよ」
智は顔を背けて俯いた。
やっぱり、この話題は智の心には堪えるんだ。
「そんな柔じゃねえよ…」
「どんな人でも心は複雑で、弱いんだ」
「俺はそんな…」
「智…」
震えている。
智の手が小さく震えてる。
ぎゅっと手を握ると、驚いた顔をして顔を上げた。
「智、自分のせいだって自分で自分を責めても、ご家族を殺した犯人はわからないんだよ?」
「翔…」
「そうやって自分で自分を責めて、自分をゆっくりちょっとずつ傷つけて…」
「そんなこと、してない…」
手を振り払って立ち上がろうとする智の腕を掴んで、無理やり座らせた。
「それは心の自殺だ」
「違うっ」
「そうやってゆっくりと心を殺して、ご家族に贖罪してるつもり?そう思ってるのが気持ちいいの?不幸な自分に酔ってるの?」
「違うっそんなこと思ってないっ…」
「じゃあ、なんなの?どうして調べないの?怖いの?」
「…ああ…怖いよ…」
入っていた腕の力が抜けて、するりと膝の上に落ちた。
「すべてを明らかにしても、俺はあの世界には戻れない」