第12章 Ave Maris Stella
「たかだかって言うなよ。自分で稼いだ金じゃないんだろ?」
「…でも自分の金ではあるよ。爺様からの遺産をそのまま取っておいて、去年から運用はじめたから。その利益分で買うから」
「む……それはなんも言えねえな」
「えへ」
もっと良いバリカンはないかと、スマホで探しながら朝食を食べていたら、智がぽつりと呟いた。
「そっか…金、持ってるなら使ってもいいんだよな…」
「ん?」
「いや…なんでも…」
そう言いかけたけど、じっと自分の手を見てから智は顔を上げた。
「俺…翔の家で初めてバスローブって使ったんだ」
「そうなんだ」
「あれ、気持ちいいよな。俺、ほんとあれ気に入ったんだ」
「よかった。じゃあ一着プレゼントするよ」
「自分で買う」
「え?」
「俺さ、金だけは持ってるんだ…」
智はまだテーブルに乗せた自分の手を見てる。
その目には光がなかった。
「なんで…持ってるのに、今まで使わなかったんだろうな…」
それはもしかして……
人を殺して得たお金なんだろうか
智が手を汚して、命を葬った金なんだろうか
俺と出会った日みたいに、命がけで──
「だから、自分で買う」
「…うん…」