第12章 Ave Maris Stella
まるで想像がつかなかった。
自分で自分の髪なんてどうやって切るんだ?
髪の毛なんて自分でセットすることすら難しいのに。
「それってこんなやつ…?」
ちょうどダイニングテーブルにスマホを置いていたから、ハサミを検索してみた。
「おお。これすきバサミっていうのか…お!?なんだこの便利グッズ…!」
「え…ええ…そんなテンション上がるようなものなの?」
「おお…こいつはすげえ…」
もしゃもしゃとごはんを咀嚼しながら俺のスマホを覗き込んでいる智は、子供みたいに無邪気に見えた。
「セルフカット用バリカンかあ…すげえな。これがあればハサミでいちいち切らなくてもいいんだ」
「それが凄いことなの?」
「やっぱ後ろはな。どうしても見えねえから。そういうのがあったら楽だな」
「そっか」
ぽちっと買うボタンを押したら、智が急にむせた。
「ごほっごほっ…」
「大丈夫?」
背中を擦りながら、オレンジジュースのコップを口元まで持っていくと、呆然とした顔で俺を見上げる。
「おま…買うなよ…」
「え?なんで?智、必要なんでしょ?だって外に切りにいきたくないでしょ?そうじゃなきゃ、呼ぶのも嫌でしょ?」
「呼ぶって何を…?」
「え?美容師。出張してくれる美容師って結構居るんだよ?」
そう言ったら、グラスを俺から奪ってオレンジジュースを飲み干して、空になったのを乱暴にテーブルに置いた。
「おまえには経済観念ってものがないのか!?」
「え…えええ…?たかだか3000円じゃないか…」