第12章 Ave Maris Stella
「カウンセリング…?」
「受けたことなんて…ないよね?」
「あるわけない」
次の日、朝食の時に聞いてみたけど、なんでそれを聞かれたのかとか、もしかして自分に必要なことなのかとか、そういうことも思わないようだった。
それほど…自覚症状がないように見える。
裏を返せば、軽く考えているようでいて…
そう思うことで「わざと」何のケアもしない、心の自傷行為を繰り返しているようにも見える。
だから余計に、智がああなるのは深刻な状況だとも言える。
「…あんまり、もう嫌な夢は見なくなった」
「そっか…」
牛乳を智のコップに注ぐと、智は俺を眩しそうに見上げた。
「…昨日、また魘されてた?」
それには答えず、曖昧に笑う。
それを見て智はため息をつくと、背もたれに深く寄りかかって目を閉じた。
「ごめん…」
「なんで謝るんだよ」
牛乳とオレンジジュースのパックを冷蔵庫にしまって戻ると、智はまださっきの姿勢のままだった。
「食べよ?」
「…ああ」
簡単な朝食なら、ふたりで用意することには慣れた。
俺は身支度をしながら、トースターで冷凍していたパンを焼く係。あとは身支度が終わってから、インスタントのスープや飲み物を用意すればいいだけだ。
智は簡単なサラダと、電子レンジで作るココットに入った目玉焼きみたいなのを作ってくれるようになった。
毎日同じようでいて、違う。
緩やかに俺たちの間に流れる時間の質も変わってきた。