第2章 Matthew 6:8
また急に周囲が明るくなって。
どうやら部屋のドアが開いて、廊下の光が入ってきたようだ。
身構えた瞬間、小さな電子音が聞こえて天井のシーリングが光った。
眩しくて、目をぎゅっと閉じた。
「ごめん、明るかったよね!?」
また部屋の中が暗くなるのを感じて、うっすらと目を開けた。
廊下の光が部屋の中に差して、その中から男が現れた。
「大丈夫、安心して。ここは俺んち。一人暮らしだよ」
白いニットに、黒のスリムジーンズを履いている。
細身の若い男…大学生くらいだろうか。
両手をこちらに広げて見せて、害意がないことを示している。
色白の頬はまだ少年のような幼さを残している。
意志が強そうな細い眉に、くっきりとした二重(ふたえ)のアーモンドのような形をした目。
まるで女みたいに綺麗な顔をしているのに、ピンク色の唇をなぜか不貞腐れたように尖らせている。
「嘘…だろ…」
さっきの、男
さっきの男じゃないか
「なんで…?なんでここに…」
そうか、俺…ドジって刺されたんだ。
でもなんで俺はここにいる?
なんであんたの部屋に?
「うっそだろって?…だって、アンタどうしても病院行かないって言うから…」
そんなこと言ったのか、覚えていない。
覚えていないけど、ここにいるってことは言ったんだろう。
だが、こいつ…こんな見ず知らずの俺を、俺が嫌がるからって自分の家に入れたっていうのか?
今どき危機感なさ過ぎるだろ。
「あんなとこに放っておくわけにもいかないし、それに酷い風邪引いてるみたいだし…」
男はベッドに近づいてきた。
「それに腹の傷、結構深いみたいだよ。内臓は傷ついてないようだけど…」
そんなこと、わかってる。
わかってるから、だから。
「で、んわ…」
「え?」
「知り合いに…電話するから…」