第2章 Matthew 6:8
遠くで、音が聞こえる
あれはなんの音だ
やかんで湯を沸かす音
食器が立てる音
スリッパで歩く音
鼻歌……
その旋律はどこかで聞いたことがある
どこでだったか…
思い出せない
いい匂いがする
せっけんの、清潔ないい匂い
「…うっ…ううっ…」
突然痛みを感じて、思わず目を開けた。
全身が痛い。
体が燃えるように熱い。
逃げ出したいくらい体が悲鳴を上げているのに、指先すら動かせない。
「どうし…て…?」
声が枯れている。
喉も痛い。
息が詰まって、吐き出せない。
落ち着け
思い出せ
仄暗い天井が見えた。
部屋の中だ。
外じゃない。
薄く開いたドアから光が入ってきて、部屋の中を淡く照らしている。
ここはどこだ?
見たこともない部屋のベッドに横たわっている。
室内には調度品は少ない。
ベッドサイドに小さなテーブルが置いてある。
その上にはペットボトルの水が置いてあった。
喉が、乾いていた
その水が飲みたかった
でも手も足も動かすことができなかった。
全身の痛みと熱が酷いのはわかった。
でもまるで麻酔でも打たれてるかのように、体が動かないのはなぜか。
わからない
わからない
ここは危険
危険
逃げろ
逃げなきゃ
家に…
帰らなきゃ
「あ、気がついた?」