第10章 Jeremiah8:4
ホテルの人には会場のある階を中心に探してもらって、俺はロビー階の方まで降りてみることにした。
さっき入っていたラウンジの中まで見せてもらったが、弟の姿は見えなかった。
「どこ行った…」
制服姿の警察がちらほらロビーにも見える。
顔色を変えて走り回っている俺を不審に思ったのか、呼び止められ事情を説明すると、会場で倒れた客のことと関連があると思われたのか警察でも探してくれるということになった。
大事になってしまったと思ったが、そうも言っていられない。
まだ妹から連絡が来ないから、客室にも戻っていないんだろう。
俺もそうだったけど、こんな長く一人でいなくなるような教育はされていないはずだから、胸騒ぎしかしない。
もしかして誘拐されたかもと思ったら、気ばかりが焦る。
ロビー階から順に、入れそうな階を見つけて弟を探した。
30階には総合クリニックが入っていて、診察に来ている一般客の姿が見られた。
受付の人に事情を話し、子供が来ていないか聞いてみたが、そんな子供は見ていないということだった。
諦めてエレベーターホールに戻ったら、後ろから肩を叩かれた。
「こっちを見るな。前を向いてろ」
この声には聞き覚えがある。
雅紀さんと一緒に居た、あの若い男の声だ。
特徴的な甘く高い声だから直ぐにわかった。