第10章 Jeremiah8:4
「なんですか…」
エレベーターの階数を示すランプをみながら、会場で倒れた人のことが浮かんだ。
もしもこいつらに殺されたのだとしたら…
そう思ったら、一気に汗が噴き出してきた。
「…弟、見つかった…?」
小さな声は、侮蔑の色を隠そうともしない。
「あんたがやったのか…!」
振り返ろうとしたら、脇腹を殴られた。
「ぐっ…」
「こっち見るなって言っただろ…お坊ちゃんは頭わりぃなあ…」
どうしてこんな敵意むき出しなんだ。
それに俺の家族にまで、どうして手を出すんだ。
「そんなに俺が気に入らないんなら、俺をどうにかすりゃいいだろ…」
「は?」
「弟は櫻井の跡取りなんだ。俺なんかどうなったって構わない。弟を返してくれ」
呆れたようなため息が聞こえた。
「だから、大事なんだろ?弟が…」
櫻井家の事情は…いや、俺の事情は把握してるってことか…?
智には言ってないのに。
どう返事をするか迷っていたら、また脇腹を殴られた。
痛みが骨に響いて、身体を折り曲げないと耐えられなかった。
「これは警告だよ。今日俺たちがここにいた事、絶対誰にも漏らすな。それから智のこと…」
男が顔を近づけてきた。
「手を抜いたら、殺すからな?」
それだけ言うと、男はエレベーターのボタンを押した。
エレベーターが来ると、中に人が乗っていないのを確認して乗り込んだ。
「弟は10階の更衣室にいる」
それだけ言い残すと、ドアは閉まった。
その後、紳士用の更衣室で眠りこけている弟が発見された。
弟は自分の意志で部屋を抜け出したことまでは覚えていたが、その後のことはよく覚えていなかった。
大人たちは迷子になって、来たことのある更衣室を見つけてそこで寝てしまったんだろうと結論づけたが、そうじゃないことは俺だけが理解していた。
そう、俺だけが…
今日ここで起こったことを、理解させられたってことになる。
あの倒れた人は、殺されたんだ──
智…
あなたは一体、何者なんだ…?
【Jeremiah8:4 END】