第10章 Jeremiah8:4
その後、警察や救急車が来て人が多くなったので、父親に断って控室を離れて会場に戻った。
会場では母や叔父が何事もなかったかのように挨拶回りをしていた。
先程指示した通り、食事も出始めていた。
食事をしたり歓談をしたり。
いつもの新年のパーティーの雰囲気に戻っていた。
さっきあったことはここにいる全員が知っていたが、それでも何もなかったかのように会場は穏やかだった。
控室の喧騒から戻ったばかりだからか、奇妙な感じがした。
皆が覚えているのに、皆が知らんぷりする。
それがなんだか気持ち悪いと思ってしまった。
気を取り直して、妹と弟を探した。
隅の方の椅子に座って大人しく食事をしているようだった。
この分なら、後少し経てば部屋に戻るだろう。
少しホッとして、さっきの客が倒れていたところを見た。
もう周りには誰もいないが、ホテルの人がその周囲を立ち入れないようにベルトパーテーションをしていた。
医者になる勉強をしているし実習にも出ているから、人の死には免疫があると思っていた。
でもあの人が、病気ではなく無理やり命を奪われた人だったら…
雅紀さんとあの若い男が、殺したんだろうか。
だとしたら…本当の智の姿って──