第10章 Jeremiah8:4
「突然のご病気でしょうか?」
「いや…なんとも言えんな」
「と言いますと…?」
「我々が駆けつけたときにはすでに呼吸は停止していた。目立った外傷はない。だが苦悶した様子もないし、顔色も悪くなかった」
「ではご病気ではないと…?」
「…解剖でもしてみんことにはわからんな」
切って捨てるような言い方だったが、この状況ではなんとも言えないだろう。
「左様でしたか…こちらのお客様のご家族様へのご連絡はいかがいたしましょうか?」
「受付の者に確認して貰えるか。この方の連絡先を把握しているはずだから」
「かしこまりました」
「救急車と、警察も来ることになると思う。そちらの対応も頼む」
「はい。お任せください」
支配人は深々と礼をすると控室を出ていった。
それを見送ると、父親もAEDの作業に参加した。
あの言い方だと病気以外での呼吸停止を疑っているのか?
それとも誰かになにかされたと考えているのか?
いやこんな大勢の前で殺人なんて…考えられない。
救命措置を見ながらも、集中できない。
雅紀さんとあの若い男が何かしたのか。
そればかりが頭を過る。
関係ない…関係ないはずだ…
でも
「離れて!」
AEDの電気ショックの音が聞こえて、すぐに心臓マッサージが再開された。
「戻りません!」
「もう一度行くぞ」
父親はAEDの計器を眺めながら苦い顔をしている。
諦めの空気が控室に漂っていた。
何度か電気ショックを繰り返したが、結局その人の脈や呼吸は戻ってくることはなかった。