第10章 Jeremiah8:4
「兄さん、どうしたの?」
「あ…」
飲み物を持ったまま、さっきの記事の事を考えていた。
「いや、ちょっと疲れてて」
「なに?お正月、遊びすぎたんじゃないの?」
ずけりと物を言うのは、家族の中では妹だけだ。
高校生になって女子校になったからか、遠慮のなさは加速している。
「まあな」
「…もう、ちょっとくらい家に顔出せなかったの?」
「ちょっとな」
のらりくらりと躱していると、そのうち人が集まってきて新年の挨拶合戦が始まってしまったから、妹からそっと離れた。
あのまま追求されたら余計なこと喋ってしまいそうだった。
そのくらい、あの記事に頭が持っていかれている。
「おっと」
足元の絨毯の柄を見ながらあの記事のことを考えて歩いていたら、誰かにぶつかりそうになった。
顔をあげると、そこには雅紀さんと運転席に居た若い男が立っていた。
「…すみません」
「いえ」
爽やかに笑うと、若い男を促して別の方向に歩いていった。
若い男は、相変わらず俺のこと睨みつけていく。
「…なんだっつーんだよ…」
もしかして、あいつもゲイか?
好きは好きでも、智のこと恋愛対象として好きなのか?
だから俺のこと気に入らないんだろうか。
「バカバカしい…」
智はストレートなのに。
なんで俺のこと恋人なんて言ったんだろう。
家に帰ったら、聞いてみたほうが良いかな…