第2章 Matthew 6:8
だって俺たちはプロの暗殺者──
雅紀は俺たちのエージェントとして仕事を受けて。
俺たちは実際に現場に行って人を殺す。
人の命を奪って大金を稼いでる。
これ以上の罪って、存在する?
「地獄に堕ちるしかねえよな」
ぐっと奥歯を噛みしめると、エンジンを再び掛けてマリーナに戻った。
雨はその間もザーザーと音を立てて降っている。
いきなりガクッと膝から力が抜けた。
「ホントに…早く帰らないと、マズイ」
マリーナで船を乗り捨てると、とにかく廃工場に背を向けて雨の中を走った。
車は何処に停めた?
思い出せない。
もうこうなったら、松岡のじいさんでも呼んで…
もう「俺はロートルだ」とか言ってじいさんは全然仕事はしていないらしいが、電話くらいは出てくれるだろう。
腕の良い殺し屋(じいさんは頑なに暗殺者とは言わない)で、俺の師匠でもある。
だからこんな時、無意識に頼ってしまう。
革ジャケットの懐に手を入れた瞬間、周囲が急に明るくなった。
「……!?」
驚いて飛び下がろうとしたが、足がもつれて後ろに倒れ込んだ。
「うっ…」
倒れ込んだ瞬間、脇腹に激痛が走った。
せっかく忘れていたのに、体を捻ったからか痛みが再燃した。
いや、それどころか悪化したかも。
じわりと脇腹に温かい液体が広がる感触がした。
「くっ…う…」
思わず唸り声が出る。
その痛みの波を逃そうと、体を縮めて蹲る。
この場から逃げることも、忘れていた。
「チクショ…あのオッサン…どんだけ深く刺した…」
雨は容赦なく俺の体を打ち付け体温を奪っていく。
指先の感覚がない。
体が勝手に震える。
そうだスマホ…
松岡のじいさんに連絡…
そう思った瞬間、誰かの手が俺の手に触れた。