第9章 Romans7:7
パーティーの開始までにはまだ一時間ほど時間があった。
「じゃあざっと確認させてもらうよ」
そう言うと、潤は嬉しそうに頷いた。
「ああ。俺はレポートやってるから、ゆっくり見てよ」
「さんきゅ」
タブレットをクラッチバッグから取り出すと、膝の上に乗せて文字を打ち始めた。
画面を指でタップする音を聞きながら、紙束を一枚一枚確認していった。
思った以上に紙束には情報が詰まっていた。
新聞記事が中心だったが、週刊誌の記事も混じっていた。
ざっくりとしか読めていないが、その事件の凄惨さの影に隠れている家庭内や本人の抱えていた問題に暗澹とした気持ちになる。
こういう闇があるとニュースで見たり本で読んだりするから、知識として知ってはいる。
だけどそのひとつひとつが、果たして自分と同じ人間が引き起こしたことだと想像したことがあっただろうか?
一枚また一枚と、他人の人生のターニングポイントとなるであろう事件の概要を見ていると、俺の抱えている問題なんて小さいものだと思ってしまう。
「ふぅ…」
一点を見すぎて目が乾いた。
目頭を押さえていると、潤が笑った。
「集中しすぎ…これからパーティーなんだろ?」
「ああ…つい、ね」
すっかり冷めきったコーヒーを飲みながら、なおも読み進めてみたが、ぱらぱらと見た中には、智の事件に該当しそうなものがなかった。
「翔、タイムアップだ」
潤に言われて、もうパーティーの開始10分前になっていることに驚いた。