第9章 Romans7:7
「ああ…もう行かなきゃな」
目が乾いてしょうがなかった。
また目を擦ると、いつの間に貰ったのか、潤は温かいおしぼりを差し出してくれた。
「ありがとう…」
よく気のつく奴ではあったけど、大学に入ってから気を使う質が変わった。
以前は独りよがりなところもあったんだが、人の気持ちに寄り添うような物になった。
端的に言えば、前よりも優しい奴になった。
…それはルポライターの卵として、こういう事件に接するようになったからだろうか。
「まあ、家に帰ったらゆっくりとチェックしてよ」
「うん…」
家に持って帰るわけにはいかない。
智が見てしまうかもしれないから。
家に置いておくと、安心して外出することもできない。
帰りにコインロッカーにでも預けて置くのが良い。
「ああ…気持ちいい」
温かいおしぼりを目元に当てると、じわりと目が温かくなる。
「あっ…」
潤の慌てた声が聞こえておしぼりを取ると、潤がお冷のコップを倒していた。
「やっべ…!」
置いていた紙の資料まで水が来そうになっていた。
慌てて紙束を手に取ったが、手が滑って床に取り落としてしまった。
「…わりぃ。あ、翔のスマホ…!」
紙束の横に置いていた俺のスマホが水没していた。
「防水だから大丈夫」
「あ…よかった…」
潤はおしぼりで俺のスマホを拭いてくれた。
その間に、店員がやってきてテーブルの水を拭いてくれた。
「ありがとう」
「いいえ…他に濡れたものはございませんか?」
「ああ、大丈夫…」
潤が店員とやりとりしている間に、床に散らばってしまった紙束を集めた。
そのうちの一枚に、見覚えのある顔。
「…翔?どうした?」
「ああ…」
みつけた
智の、過去
【Romans7:7 END】