第9章 Romans7:7
「ふうん…」
雅紀さんはまじまじと名刺を見た。
「まだ大学生なのにこんなもん必要なんだ?」
「今日はパーティーなんで…特別です」
そう言うと、雅紀さんはタバコを消した。
懐から名刺入れを取り出して名刺を入れると、再び懐にしまった。
「連絡させてもらう」
「お待ちしています」
そこからしばらく無言の車内だった。
パーティー会場に付く前に、ぽつりと雅紀さんが呟いた。
「…どこで智と出会ったんだ?」
「え…?」
全身に汗が噴き出してきた。
どうしよう。智はなんて雅紀さんに言ったんだろう。
「ね…ネットで…」
「ゲイのそういうのあるの?」
「…あります」
雅紀さんは俺に顔を向けて、わけがわからんって顔をした。
「あいつがそういうサイトにねえ…」
「はあ…」
多分、想像がつかないって思ってるんだろう。
「あのさ、俺たちも桜井総合病院のパーティーに招待されてるんだけどさ」
「え?そうなんですか?」
意外な感じがした。
それが顔に出てたみたいで、雅紀さんは苦笑いした。
「でも会場では知らないふりしてくれないかな」
「あ…はい…」
「俺たちのことは何があっても、誰にも言わないで欲しい」
雅紀さんの顔が、真顔になった。
「これを守ってもらえなかったら、智はすぐに引き取る」
有無を言わせない物言いと雰囲気。
「…わかりました」
そう言わないと、この生活がぶち壊されるのは目に見えていた。
今はまだ…智には俺の傍にいて欲しい。
どう治療していけばいいか、わからないけど…
それでもなんとかしてみせる。
だから従うしかなかった。