第9章 Romans7:7
「なに黙ってんだよ」
雅紀さんが苛立って、俺の肩を掴んだ。
「落ち着いてください。それがどうしたって言うんですか」
「いや…智からはなにも聞いていなかったし、そういう影が見えることもなかったから、はっきり言えば信用できない」
「…話になりませんね。じゃあ俺と智がセックスでもしてるところを見せれば良いんですか?」
「あのなあ…」
「俺は、智のことちゃんと治すって決めたんです。だから帰しません。あなたが俺たちの関係について、信用するしないは関係ない」
「なんだと」
低い声に怯みそうになるが、智と一緒に居るためには強気で出るしかないと思った。
「智とあなたがどういう関係か、俺は聞いてない。だから俺はあなたの影響を受けないし、命令も聞かない」
そう言い切って、肩から手をゆっくりと退かした。
「雅紀」
不意に運転席の男が声を出した。
「もういいから智回収しようよ。コイツだめだ。話にならない」
「黙ってろ」
「なんでだよ!?」
「埋められたいのか」
低い声で威嚇するみたいに、雅紀さんは言い放った。
「はあ!?なんつったの!?埋める!?」
一際大きな声に一瞬で空気が凍りついた。
凄い剣幕に、雅紀さんも黙ってしまった。
「埋めればいいだろ!?早く智取り返してよ!」
まるで子供が駄々をこねているような言い方…
これはわがままを言い慣れている人の物の言い方だ。
俺の古くからの級友にも何人かこういう物言いをする奴がいる。
「…黙れって言ってるだろ!?」
「黙らない!智を取り返して!」
「ああチクショ…連れてくるんじゃなかった…」
雅紀さんが呆れて天を仰いだ。