第9章 Romans7:7
「いい?決して無理してはだめだからね?」
「わかったよ…もういい男が台無しだから、行けよ」
「へ?いい男?」
「…そうやって、スーツ着てるといい男に見える」
今日の格好は、成人式のときに作った野暮ったいスーツだ。
昔ながらの赤坂のテーラーに父親に連れて行かれて作ったものだ。
父親が気に入った型だから、今日のパーティーにはこの野暮ったいスーツがいいかと思って選んだ。
「こんな野暮ったいのに…?」
「スーツに野暮ったいもクソもあんのか?」
「え…まあ…」
わけがわからんという顔をした。
「皆一緒に見えるけどな」
「まあ…スーツにも流行の型っていうのがあってさ」
「へえ…」
「今俺が着てるのは、父親が若い頃に流行ってた型のリバイバルっていうか…流行は回るからね。だけどまたこれが周回遅れっていうかね。今更これなの?っていうさ…」
「……おう」
「わかってないでしょ」
「ファッションのことは興味がない」
がくっと力が抜けたけど、智の場合はしょうがないのかなと思った。
「智と話してると、たまに原始人と話してる気分になる」
「あんだと?猿だっていいたいのかよ」
「一応遠慮して、原始”人”って言ったのに…」
「猿と何が違うんだよ」
「一応”人”ってついてるじゃん」
「む…」
「さては歴史得意じゃないね」
「居眠りの時間だった」
「だ、ろーね」
まあ…こんな警察に追われるような生活してたら、服なんて地味なものになっていくしかないのかなと思った。
「…興味ないくせに、いいよね…」
「え?」
「智はなで肩じゃないから、何着てもキマるもん」
「…元気だせよ」
「うるせー!」