第1章 こっちにおいで
区切りのいいところでペンを置きぐっと背伸びをする。バレーでは役に立つ身長も勉強するには少し不向きだ。どうしても猫背になって長く集中ができない。それでも気づけば正午を少し過ぎた頃で休憩がてら昼食をとることにした。
レトルトのカレーを温めながら封印していた携帯を確認する。
ゲームやSNSの通知を流し見してからメッセージアプリを開くと父親から今日は遅くなると届いていた。俺が大学を目指している話しを父にしてから、明らかに帰りが遅くなる日が増えていた。父は何も言わないがきっと、そういうことなのだろう。
頼りきるつもりはないが、自分のために働いてくれている父に結果で恩を返そうと午後からの勉強に力が入った。
冬の日没は早いもので、窓から差し込んでいた西陽も暗くなり始めた。ノートの文字が見えづらくなって勉強を終わりにする。
そろそろが来るはずだ。灯りをつけて、軽く片付けをしているとインターホンが鳴った。
玄関のドアを開けると待ち望んだ笑顔がそこにあって、待ってたと俺にしては珍しく素直に伝える。
「えへへ、私も会えるの心待ちにしてました!」恥ずかし気もなく満面の笑みで抱きついてくる彼女に愛おしさが込み上げてくる。
甘えたい気分だったのも相まって「今日は勉強ガンバッタので癒してください。」と抱きしめ返せば「あ、甘いの買ってきたんで一緒に食べましょ!疲れた時は甘いものです」なんて的外れなことを言って、なんだかそれもらしいなと自然に笑みが溢れる。
「サンキュー、でもそれは後で。」
今はこっち、そう言って腕の中の彼女に唇を落とすと少し驚いたようで、回された腕にぎゅっと力が入って徐々に深くなる口付けに比例してゆるまる腕を絡め合う。
角度を変えて繰り返される行為に冷え切ったの身体が少しづつほてっていくのが分かって、まるで熱が感染するかのように身体の内側からふつふつと熱いものが込み上げてくる。
「っ、ふ…ぅん、ん」
重ねた口の端から溢れる息継ぎの音さえのものだと思うと愛おしくて、もっと、もっと聞かせてほしいと崩れていく理性に抗うことができなかった。