第1章 始業式
「伊作なんて家族みたいなもんだし、大丈夫だって。それを言ったら留三郎を含めた六年全員が私にとって家族だけど。だからやっぱ恋愛感情は持ち込めない」
「あ、何フられたの?」
「もう少し傷心の俺を気遣え、伊作」
結局いつもの雰囲気に戻ってしまった。
「に恋なんて百年早いよ」
「黙ってよ、伊作。私だって恋したことはあるからね」
誰にも言えない秘密。
私は入学したての頃、元気で明るい、気さくな小平太が大好きだった。
「初耳だけど、誰さ」
「伊作は意地悪だから教えない」
「僕、優しさだけが取り柄なんだけど」
「それ言ってて自分で悲しくならないの?」
「哀車の術だよ、バカ」
「お粗末だね」
「君の感受性がね」
小平太への思いを諦めたのは、自分が色の授業を受けた四年生の頃。
乱世でくノ一として生きていくことの意味を知った私は、もう恋はしないと決めていた。
何より大切な友である彼らの道を邪魔するわけにはいかない。
もし彼らからたとえ好意を寄せられていたとしても、恋人として過ごせるのは学園にいる間だけ。
そんな非情な割り切りをできるほど彼らへの思いは軽くない。
ただ体や女や恋に興味があるだけなら、恋人になってやっても良いとは思っていた。
それくらい私自身に興味がないのであればこちらだってある程度は非情になれる。
しかし吟味すればするほど、留三郎の思いはそんなものじゃなかった。
伊作に彼の恋模様を尋ねても、本人に真意を尋ねても、返ってくるのは真剣な言葉。
三人の間に重苦しい沈黙が降りる。
破ったのは伊作だった。
「で、誰」
「何、まだそれを諦めてなかったの?」
「もう一度言うが、文次郎だったらはっ倒す」
留三郎の牽制に苦笑いを浮かべた。